カキ菜は、アブラナ科アブラナ属、セイヨウアブラナではなく、在来種(和種)のアブラナである「なばな(菜の花)」の一種。今号のテーマ「気管支喘息(ぜんそく)」は、気道粘膜の腫れなどの症状が見られ、カキ菜は、皮膚や粘膜の健康維持につながるビタミンCなどの栄養を豊富に含んでいる。

桐生大医療保健学部栄養学科准教授 荒井 勝己さん 

由 来

 群馬、栃木両県の両毛地域で古くから栽培されてきたカキ菜。各地の伝統野菜として親しまれ、本県でも田口菜や宮内菜などのカキ菜が受け継がれています。カキ菜は、栄養成分表で「なばな(菜の花)」に含まれます。黄色い菜の花が咲く前に食用として楽しめ、春の訪れを感じさせる食材です。

栄養成分

 カキ菜を含む「なばな(菜の花)」は、ビタミンCやビタミンK、葉酸などのビタミンをはじめ、カルシウムやカリウム、鉄などのミネラルを豊富に含んでいます。

 ビタミンCは、コラーゲンをつくるために不可欠です。コラーゲンはたんぱく質の一種で、皮膚や粘膜の健康維持やシミの原因となるメラニン色素の生成を抑える働きがあります。さらに、鉄の吸収促進や抗酸化作用による動脈硬化や心疾患の予防、発がん抑制などの効果も期待できます。

 ビタミンKは、出血した時に血液を固めて止血する因子を活性化します。また、骨の健康維持にも不可欠で、骨にあるたんぱく質を活性化し、骨の形成を促すことも知られています。

 葉酸は、たんぱく質や細胞をつくるときに必要なDNAやRNAなどの核酸を合成する重要な役割があります。このため、赤血球の細胞の形成を助けたり、細胞分裂が活発な胎児の発育に役立ったりするなどの働きをしています。妊娠初期の女性が十分な葉酸を摂取すると、胎児の脳や脊髄の基となる神経管の発育不全を減らせることも報告されています。

コラム/鮮度が落ちるのが早い
 カキ菜は、花らい(つぼみ)や茎の部分を食べる「花菜類」に分類されます。花菜類はビタミンやミネラルを豊富に含みますが、ほかの野菜に比べて収穫できる期間が短く、さらに鮮度の落ち方が早いのが特徴です。むき出しで置いておくとすぐにしなびてしまうので、濡らした新聞紙などでくるみ、袋に入れて野菜庫で保存するようにしましょう。

レシピ/カキ菜のスパゲティ

エネルギー502kcal/たんぱく質20.4g/炭水化物77.7g/塩分1.2g

群馬大医学部附属病院 栄養管理部副部長 斉賀 桐子さん
 カキ菜のあくは、ホウレンソウの20分の1以下と少ないので、炒め物は下ゆで無しでも問題ありません。カキ菜のスパゲティは、ビタミンCのほか食物繊維も豊富に摂取できます。

◆材料(1人分)
カキ菜(一口大カット)50g、スパゲティ乾麺100g、オリーブオイル12g、ニンニク(みじん切り)3g、唐辛子(輪切り)少々、しらす干し20g、刻み昆布4g
◆作り方
①スパゲティをゆでる。
②フライパンにオリーブオイル、ニンニク、唐辛子、しらす干しを入れて熱し、ニンニクの香りがたったら、しらす干しの半分の量をフライパンから出しておく。
③②のフライパンにカキ菜を加えて炒めたら、ゆでたスパゲティと刻み昆布を混ぜ合わせる。
④③を皿に盛り、上に②で別にした、しらす干しをのせる。


 

 ビタミンCなど豊富な栄養を含むカキ菜の一種として、前橋市田口町で栽培されている伝統野菜の「田口菜」。一般に流通していないが、独特な苦味と甘味が特徴で、地元の南橘地区地域づくり推進協議会花・緑いっぱい部会の会員が生産、収穫作業に当たっている。

伝統野菜を絶やさない

 同町内の原生地とされる場所には「田口菜発祥の地」の看板が立つ。同市富士見町出身の農業指導者、船津伝次平が政府中枢にいた大久保利通を通じて明治天皇に献上したところ、「この菜は大変おいしい」とのお言葉があったと伝わる。それを機に無名だった菜が、地名から「田口菜」と名付けられたといわれている。

遊休農地を活用

 昭和30年代(1955~64年)ごろまでは同町を中心に前橋北部一帯で田口菜が作られていたが、農家の高齢化やほかの葉物野菜の流通などにより、生産量が減少。地元農家が自家消費用に栽培するのみとなっていった。

 こうした状況の中、遊休農地を活用し、伝統野菜の田口菜を育てながら地域の環境づくりを進めていこうと、2007年に南橘地区地域づくり推進協議会が発足。さまざまな部会の一つ、花・緑いっぱい部会では「菜の花(田口菜)プロジェクト」をスタートさせた。畑は約40アール。10月に種をまき、2月下旬から4月上旬に収穫する。約80人いる部会員が、都合がいいときに畑を訪れ、自宅用に手で摘んでいる。

菜種油もつくる

 畑を管理するのが、岩崎富雄さん(71)。畑を耕し、草むしりなどの作業に当たっている。岩崎さんは「害虫駆除をしないと枯れることもあるので、発育状況をこまめに観察している」と目を光らす。

田口菜が開花した菜の花畑に集まる(右から)栗原さん、岩崎さんと会員

 毎年、食用の菜種油も作っている。春先の菜の花を楽しんだ後、コンバインで菜種を収穫し、会員総出で菜種のごみを取り除いて袋詰め作業をする。集めた菜種は加工会社に送り、昨年は264キロの菜種から油を搾った。会員が瓶に独自のラベルを貼り付け、菜種油280本(1本270グラム)を作り、地域のイベントなどで完売した。

 コロナ禍以前は、10月の種まきに地元の小学生が参加し、収穫体験も行っていた。部会長の栗原秀夫さん(78)は「子どもたちが経験して田口菜を身近に感じてもらえるように、また取り組んでいきたい」と力を込める。

 今年12月には近くに道の駅「まえばし赤城」が開業予定。田口菜をはじめ、地域の特産物をPRする場としての活用も期待されている。

独自のラベルを付けた菜種油。香りがよく地域の人たちに好評

 栗原さんと岩崎さんは「地元の皆さんに田口菜のおいしさを広め、伝統野菜を絶やさないようにしたい」と受け継いだ種を、次世代に伝える使命感を抱いている。

メ モ
 県内の「なばな(カキ菜を含む)」の主な産地は、高崎市、甘楽町、前橋市、伊勢崎市。農林水産省によると、2018年産の作付面積は5ヘクタールで全国8位、出荷量35トンは全国11位。プランターで栽培でき、土の上をなぞり筋を付けたところに種を間隔を空けてまき、ある程度大きくなったら間引く。根元から摘むと脇芽が次々と伸び、何度も収穫が楽しめる。