Victoria Samson
[英語版編集部注:]制御不能になったスパイ衛星の撃破(日本語版記事)に米国防総省が使用する迎撃ミサイル『SM-3(Standard Missile 3)』は、これまでの実験ではそれなりの成績を上げてきた。だが、衛星が大気圏に突入する前に撃破しようとする今回の作戦では、このミサイルが持つある欠点によって、問題が生じるおそれがあるという。
以下に、米防衛情報センター(CDI)のミサイル専門家であるVictoria Samson氏の文章を掲載する。
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米国の『イージス艦弾道ミサイル防衛システム』は、SM-3を使用して「直接迎撃」を行なう。つまり、宇宙空間では爆発は起きない。SM-3は、激突時の運動エネルギーだけで標的を破壊する。
SM-3を製造する米Raytheon社によれば、SM-3の運動エネルギーは130メガジュール以上で、これは「時速約966キロメートルで走行する10トントラックのエネルギー量に相当する」という。
SM-3は3段式ミサイルで、1段目と2段目が行なう加速によって地球に近い宇宙空間に突入し、3段目の(運動エネルギーを利用する)弾頭がターゲットに衝突する。
迎撃ミサイルのSM-3が標的を捕捉するのは、主として、目標捜索装置(シーカー)が特定の種類の物体を捕捉するようプログラミングされているからだ(現行モデルの改良版である『SM-3 Block1B』は、2波長赤外線シーカーが搭載される予定なので、目標識別能力が向上すると期待されている)。
現時点ではSM-3は、短・中距離弾道ミサイルの迎撃実験が行なわれており、実験では14回中12回迎撃に成功している。
これらの迎撃は標的が宇宙空間にある段階、すなわち高度約160キロメートル以上の地点にある段階で行なわれ、宇宙の冷たい環境のなかにある熱い標的を捕らえる。
最も新しいところでは、2007年11月6日に米艦から発射・迎撃実験が行なわれ、成功している。
[以下は、その実験をレポートする動画(過去記事(英文記事)から)。]
SM-3を製造する米Raytheon社のサイトに掲載されている、SM-3による迎撃の仕組みを引用する。
だが現実には、上述のとおりには行っていない。発射実験が失敗したケースは数少ないが、その1つは、実験中に、新しい誘導制御システムである『Divert and Attitude Control System』(DACS)のセラミック製部品に亀裂が入ったのが主因だ。
この問題は解決されておらず、現在、最も先進的なモードは使われていない。つまり、もっと難しい標的を迎撃する際に、これがSM-3の操縦性に影響するおそれがあるわけだ。
さらに、これまでの実験はすべて、飛行中の動きが詳細な点まですべてわかっている標的に対して行なわれてきた。ということは、最終段階で軌道修正が必要になるかもしれない未知の標的に対する実験は行なわれていないということを意味する。
国防総省が2007年末時点で保有しているSM-3迎撃ミサイルは21基だ。安心できるほどたくさん保有しているとは言いがたい。
今回の撃破計画について国防総省は、3基のSM-3に改良を加えて、制御不能な衛星を捕捉できるようにすると述べている。
予定されている改良には、ミサイルではなく衛星を標的にするようソフトウェアに修正を加えることも含まれると、非営利団体『憂慮する科学者同盟』(Union of Concerned Scientists:UCS)のDavid Wright氏は『New Scientist』誌に語っている。「SM-3はもともと、秒速3〜4キロメートルで航行するミサイルを迎撃するために開発された。今回撃破する予定の衛星は、秒速7〜8キロメートルで移動している」
だが、この修正によって、計画の最大の問題点の1つが明白に浮かび上がる。それは、標的が何かわからなければ、撃破に成功する可能性は低い(状況を認識する可能性はきわめて低い)ということだ。そして、これまでに行なわれた実験はすべて念入りに計画されており、システムがその場で急きょ迎撃を試みる実験は一度も行なわれていない。
[日本語版:ガリレオ-矢倉美登里/小林理子]